小学校高学年の時の話。
友達を作ることにものすごく燃えている女の子がいて、クラスで評判のいいグループを選んで目を付けては、そこに仲間入りしようと常に働きかけているのを私は目撃した。
クラスの中心的で活発なグループに彼女は軽くあしらわれ、どこか私を見下し相手にしたくなさそうな態度なのに、仕方なく私が属する控え目なグループに入り込んできた。
彼女が話す内容は、ほぼ一日中、その場にいない別グループの誰かのこと。どうしようもない欠点について、悪口とまでは言い難いレベルで面白おかしく批評していた。
だけど本人が聞いたらきっと傷付く話しっぷりで、それを大勢の耳には入れられないとわかっていながら、陰口を楽しんでいる汚い人間だった。
私は彼女から発せられる会話が不快でならなかった。しかし彼女の語り口はあまりにも巧妙で人の思考を奪うため、おおかたの人は気にも留めていないようだった。
ある日いつものように彼女の当てこすり風な人格批判が始まり、またそれが否定できるほどの間違った見解でなかったので、私は適当に相づちを打っていた。
その最中、標的にされていた人物が何かの大きな賞をとったと発表があり、教室内はにわかにその人を英雄視する熱気に沸いた。
その熱気を受けた彼女は陰口の途中にも関わらず、話を切り上げ一目散に祝福ムードの輪に駆けつけて友達のふりをしていた。・・・何事もなかったかのように。
私は恐ろしくなった。それなのにこんな光景を目にしてなお、私以外の人は彼女のあり得ないその言動を見ていなかったことにし、都合よく流して処理された。
それどころか皆、彼女を呼ぶ時には普通に『○○ちゃん』とか一般的な感じにせずに、『○○(名前)さん』と一段上の人間を扱うような愛称にしていたくらいだった。
親しみを込めていないのは見てとれるが、決して皮肉を込めたよそよそしさはなかった。なぜそんなに彼女を買いかぶるのか私には理解できない。
彼女は周りの人間に悪い考えを植え付け、彼女の行く先々が険悪になる。彼女自身は手を下さずに争いの種をまき、涼しい顔をして被害者面までしていた。
中学に上がると私が入っていた部活に後から入部し、それまで平穏だった先輩との関係を背後から悪くさせる不満ばかりを口にして雰囲気を壊した。
それなのに、偶然にも彼女が学校を休んだ日に限って、残りの部員が先輩から呼び出されたりした。
元凶は彼女に外ならず、私たちがいくら先輩から問いただされても、何もわからないのだから答えようもない。神様まで彼女の味方なのかと絶望的になった。
信じられないことに、後日彼女と先生を交えて再度話し合いをしたところ、うやむやになって誰も彼女を悪く言う人間はいなかった。
しかもさんざん引っかき回された先輩方の方から、張本人の彼女に対して後に「人をまとめる力がある」などと次期部長に推薦したのには呆れた。
大人になって、情報操作・マインド・コントロールという概念を知った際、私は「あ、あの現象だ」とすぐに腑に落ちた。